夢千一夜 第三夜
彼は他人のそれと同じように、人並みに心に傷を負っていた。
普通なら見逃してしまうような事を彼は拾い上げて
いちいちそれを観察し、自分自身と結び付けては神経をすり減らす。
切りの無い作業に一度捉われると、そこから抜け出すのはとても困難な事であった。
生きている限り、人との別れは付き物であって避けて通れないものだ。
いつでも連絡をとれる、と思っていた人と突然音信不通になる事が多々ある。
それについて、彼はいちいち心を痛めるのだった。
別れは、予期しない時に不意に訪れる。
あれだけ仲が良かったのにどうして
何故このタイミングで
意図的なそれであれ、意図しないそれであれ、
本当の所は、当人あるいは当人同士でしか分からない事だ。
傍から見れば、順風満帆に見える国同士の付き合いが
実は巧妙な駆け引きのそれであるように
個人同士の付き合いも
他者からは計り知れない力学が働いている事が往々ある。
むしろ、それが全く無い関係の方が珍しいくらいだ。
羨望には嫉妬が、称賛には非難が、つねに影として付きまとうように
あらゆる感情がブレンドされたそれを元に
シナプスのように繋がり合う人間を結び付けている。
彼はその日、一人の人と連絡がとれなくなっていた。
それが彼の心に影を落としていた。
そして、彼は思い出したのだ。
別れは突然くるのだ、と。