かもしれないブログ

月一更新です。

夢千一夜 第一夜

こんな夢を見た。
行列に続いて歩いていくと先の方に何やら門のようなものが見えてきた。
周りは暗い炎が見えるだけで、その先に何があるのか分からないまま延々とここまで歩いてきた事だけを覚えていた。
私の前には新幹線の玩具を握りしめた6歳くらいの男の事がいた。親のような人は見えずどうも一人でここに来たらしかった。
別段寂しそうな雰囲気でもなく彼は只その新幹線を失くさないようにギュッと握りしめている事だけが分かった。
後を見るとひとりの老婆がいた。
彼女はずっと独り言を言ってた。そして時々えらい大きな声で怒鳴りつけていたが相手らしき人物は見当たらなかった。
どのくらいになるだろうか。
一晩や二晩どころの騒ぎでは無い。少なくとも一週間は歩き続けている筈だった。
しかし全然足に疲れが出てこない。
休みなく歩いていると時間の感覚も曖昧になってくるようだった。


段々先が見えてくる。人々はなにやらそれぞれ自慢話を持ち寄っているようだった。
行列の先頭には道端によくある地蔵を一回りかそれより少し大きくした位の石が置いてあった。
その石に向かって一人一人、人生で一番の自慢をしているらしかった。
石の先には道が二つあり右と左に分かれていた。
しかしほとんどの人が左の方に振り分けられ、右に進むものは10人中1人あるかないかだった。
ある男性がいた。彼の自慢は自身が生涯かけて建てた家の事だった。
選び抜いた材料と職人、そして立地、窓からの眺めなどを、事細かく石に向かって自慢している様子は
とても滑稽に思えた。
また別の人物は自身の子供がいかに素晴らしいかをまくし立てるように話した。
しかし、どうもよく聴いていると子供の自慢というよりも、その子共を育て上げた自身の事を自慢しているようだった。
また別の人物は、自身がいかに異性から好かれたかを話していた。学生時代・社会人時代、誰も聴いていないにも拘らず経験人数まで数え上げた時は、周りの誰もが眉をひそめた。しかし当人は頬を紅潮させて話し続けているのだった。
ふと私は考えた。
私には何か自慢できる事があるだろうか。
何も思い当たらなかった。
何とかあの石の前に立つまでに何か考えておかないと。
そうして色々思い出そうとしていると、前方から女性の声が聞こえてきた。
彼女の自慢は、自身がどれだけ世の中の為に尽くしたかという事だった。
たしかに内容はとても素晴らしいもので、戦地で傷付いた兵士の看護をした事が主だったように思うが、それも自慢話となるとあまり聴き良いものではなかった。
彼女は左に振り分けられたが、振り分けられた後も延々話続けていた。
右にいくのが良いのか、左にいくのが良いのか、見当もつかなかった。
二手に分かれているように見せかけて、実は右も左も先の方では一つにつながっている可能性もあった。
一人、また一人、行き先を振り分けられていく。
そして、その分私と石の間の距離は近付いてくるのだった。
別の男性がいた。彼は、他人の自慢話を聴くのが耐えられないらしく、誰も聴いていないにも関わらず、他人の自慢話にかぶせて自身の自慢話をしていた。如何に自身の方が優れているのか、を証明しなければ気が済まないようだった。
彼に対して、制止するものは誰も居なかった。
その為か彼は益々気をよくして自慢を続けた。時々、これ以上の自慢はないだろうという話を他人がすると、彼は負けるもんかと張り合った。
その姿は見ていてとても痛ましかったが、私には彼をどうする事も出来なかった。
誰もが彼の話を聴いているふりをしながら内心彼を可愛そうに思っているようだった。
そうこうしているうちに、私の前には一人しか姿が見えなくなった。
今石の前に立っているのは、あの男の子だった。
彼は、石に向かって何をすればいいのか全く分からない様子だった。
相変わらず、左手に新幹線をギュッと握りしめたまま、突っ立っていた。
小さな足には赤いスニーカー、紺色の半ズボンに水色のTシャツを着ていた彼は、そのまま石の前に突っ立っていた。
後の女性はまだ独り言を言っている。頭がおかしいようだ。

私はとにかく目の前の男の子が気になった。
彼は何も話さないまま、右に振り分けられた。

何も話さなければ右に行くのだろうか。

いよいよ私の番だ。

石には、何か文字が書かれているようにも思えたが読み取る事が出来ない。
人前で自慢話をしたことが無い私は(私はそのように思っているのだが)何も話すことが出来なかった。
私は左に振り分けられた。

その後、あの男の子を見る事は二度と無かった。