「山椒大夫」
森鴎外。
これがかなりヘビーな作品で、かつ面白い。
作品に引き込まれる。これを、高校の国語の教科書に載せようと考えた人物は罪深い。
そんな感じで、森鴎外である。
鴎外は、独逸に影響されていた様子。
影響と言うか、留学に行っていて、その時のドイツ女性との悲恋を基に処女小説「舞姫」を執筆した。
軍医であり、軍医総督にまで昇進。風貌も勇ましく、如何にもといった印象がある。
猛禽類を思わせるような強い印象があるのだけれど、本人は、
「伝統的な家父長制と自我との矛盾」に悩んで、小説・随筆を発表した。
以下ネタばれあり。
「山椒大夫」
物語は、30くらいの女性と、14の姉・12の弟、それに40くらいの女中が、越後の春日を歩いている場面から始まる。
僕は、新潟には、数年前に弟とクルマで行ったのだけれど、とても心細くなった思い出がある。
海岸沿いに国道が続いていて、時刻はちょうど日が海に沈む頃。
海岸沿いと言っても、すぐ反対側は切り立った山、というか崖のような感じ。
今は広い道路が通っているのだけれど、ところどころにトンネルがあって、
合間合間に眼下に見える荒れた日本海と岩の色、海沿いにある廃屋が印象的だった。
福井から、新潟市まで行く予定だったのだけれど、そのあまりの遠さに参ってしまって、
糸魚川、親知らず子知らず辺りで引き返した。
とにかく、遠かった。ひたすらに。そして、僕にとっては寂しさを感じさせるところとなった。
それでも、景色はすごく良くて、同じ日本海側なのに、湾になっている若狭の海とは全然違うのだった。
日本海の荒波という表現は、まさに新潟にこそ相応しいのじゃなかろうか。
作品に出てくる人物、
姉を安寿(アンジュ)、弟を厨子王(ズシオウ)。
この二人の名前を何処かで耳にした事があるような気がするのだけれど、どこだったか思い出せない。
舞姫と同じように、引き込まれるように読んで行って、
一気に読み終えてしまった。
生きていくとはどういう事か、のような、
深い問いかけがある。
四人は、人買いに騙されてしまって、姉弟、母と女中、二組に別けられてしまって、離れ離れになる。
姉弟の二人は、丹後にまで来て人に買われてしまう。
愛する人との物理的な別れは、舞姫にも出てきた。
この二人の行く末が気になって、途中で読み止められなくなってしまう。
女中は、途中で、えーいここまでか、と船から身を捨ててしまう。
人買い、と言えば東南アジアとかアフリカだとか余所の国でされているのだと思ったら、
日本でもそういう事があったのか(今もあるのかもしれないけれど)と思ったら恐ろしくなる。
物語は、ずずずと進展せずに進む。
このままでは、二人はどうなってしまうのだろう。
残りのページ数も少ないし…と不安になる。
2時間もののサスペンスで、22時半になっても犯人が現れない、気配も見せない、と言った感じがする。
姉が、急に大人びて来た様子になって、
それが物語をいっきに進める事になる。
重たい内容なのだけれど、
いつか向き合わないといけない、そんな事が書かれている気がした。